ぜんぶあなたのせい

「ねえ、この線路たどれば東京に行けるかな?」
 サクラはそう言ってセーラーカラーを翻しながら、枕木をひとつひとつ渡る。私はホームから呆れたようにその姿を見守る。電車が来るのは一時間後だけど、サクラ、あんたいま結構危ないことしているのよ。そんな言葉を飲み込んでサクラの質問に答える。
「理論上はそうだけど」
「いいなあ、東京」
「そうかな」
 そうだよ、とサクラは言う。私には東京の良さなど分からない。ここは何もない土地だけれども、家族がいてサクラがいれば私にとっては十分過ぎるほど、幸せな場所だ。
「サクラ、東京の大学、受けるんだってね」
 ずっと線路を見つめていた目が私の方を向いた。一瞬、驚きの表情が浮かび、いつものサクラに戻った。
「知ってたんだ」
 ねえサクラ。あんたは知らないだろうけれど、私はサクラの全部を知っているよ。瞬きの仕方からほくろの数まで、サクラが知らないサクラのことまで。私がどんなにあんたを愛しているかなんて知らないでしょう。私はこんなに思い悩んでいるのにサクラは笑っている。
「憎らしいよ、サクラ」
 私は地元の大学の推薦狙いってこと知っているくせに。私たちは来春でお別れになる。一時の別れだとしても、私にとっては永遠のそれと違いない。子どもの私にとって最短で四年は、あまりに長すぎる。
「一緒に東京に行こうよ」
 サクラの微笑みは、私にとって最大の誘惑だった。
「行けない、お母さんを残して行けない」
「そっか」
 サクラは悲しそうな表情をしているが、悲しいのは私の方だ。本当は東京に行きたいけれど、金銭的な面で母にこれ以上、負担をかけることはできない。四年間、特待生で通して、就職して、そして結婚するのだろう、と思うと私の人生はもう楽しいことはなく、ただ墓場に一直線だ。
「サクラ、キスして」
「ん」
 サクラとの口づけだけが、私をつまらない人生から解放させてくれる。この瞬間だけ、私が生きていると実感させてくれる。しかしサクラとのキスはもう甘いだけのものではなかった。
「なんて顔しているの」
 サクラが困ったように笑う。私はそんなに悲しそうな顔をしているのだろうか。
「ぜんぶサクラのせいだよ」
 この先、生きることが楽しいなんて思わせないで。希望を持たせないで。お願い、今すぐ私を絶って。サクラがいなくても生きることが楽しいなんて私に思わせないで。ぜんぶあなたのせいなんだから。


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#創作版深夜の真剣文字書き60分一本勝負 さまから 1/26日お題「線路」を頂きました。

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