想いはまるで呪いのように

恋人なんて、すぐに見つかる。裸になれば。友だちなんてすぐ出来る。腹を割って話せば。
でも、一番に欲しいものは、貴女のなかにある。

「仕事にも就かないで、放蕩もそれくらいにしておきなさい。このビッチ!」
 私の近況を話すと、返ってきた言葉がそれだった。

 麻実とは話が合わないことは知っていた。麻美は真面目で、私のことがすこし苦手で、小学生からの腐れ縁のせいでこうしてときどきお茶をする。そして近況を話すと、なぜか必ず怒られる。
「麻美が言うとまるで私がすごく悪いひとみたい」
「既婚者と寝て、物品を貢がせて、なおかつ他にも男がいるってビッチと言う以外なんて言えばいいのよ」
「別にブランド物が欲しいなんて言ったことないよ」
「……もっと自分を大切にしてよね」
 大切に、という言葉を私は舌で転がしてみる。舌触りの悪いあめ玉みたい。自分なりに自分を大切にしているつもりなのに、麻美から言われるとすごく居心地が悪かった。性感染症になったこともないし、もちろん妊娠したこともない。
「大切にしてるよ?」
 その言葉に麻美は怪訝そうな顔をした。大抵の男は私の思惑に気が付かないから楽しい。男たちは裸の私が欲しいのだ。だからいろいろなエサを撒く。美味しくて高いご飯に、高いブランド品、花束。すべてはベッドまでの前戯で、私はそれを貪る。音楽を聴くように男に抱かれることは、そんなに悪いことなのだろうか?
「麻美は彼氏とうまくいっているの?」
「おかげ様で。って私の心配どころじゃないでしょ。私は美香みたいに遊んでないから」
「ごめん」
 なぜか私は謝った。ひとりの男に執着するということが、私にはよくわからない。すべての男は消耗品で、いくらでも代えがきく。娼婦、あばずれ、ビッチ、尻軽……私を称する言葉はたくさんあるだろう。しかもネガティブな意味で。それは耳たぶで揺らすパールのピアスのようなものでしかない。男を悦ばすことがうまいというのは悪いことではないはずなのに。私には分からないことが多すぎる。
「麻美って結婚するの?」
 あの冴えない男と、とは言わなかった。麻美の男とは会ったことがあったが、平均的な男だった。つまらなさそう。そう思った。そして顔はすでに忘れてしまった。
「来年。このままうまく行けばね」
「じゃあ、来年の今頃はこんな風に喋ってられないんだね」
 このままでは居られない。いつまでも子どもではいられないのだ。麻美が「奥様」になるのは分かる。きっといい奥様になるだろう。けど私は? 男と遊ぶことしか知らない私はずるずるとどうでも良い男と一緒に居るのかもしれない。
「そんなに心配しないで、美香の面倒はしっかり見るから」
「……子どもじゃないもん」
 麻美が私の頭を撫ぜる。子どもみたいなモンでしょと麻美は笑って私の髪の毛をくしゃくしゃにする。私はとてもいい気になる。頬が上気する。ブランド品も美味しいフレンチも、たとえ一〇〇万本の薔薇の花束を受け取ってもこんなに嬉しくなることはないだろう。
恋人もすぐできる。友だちだってすぐできる。安心して生きていくことが、私にはできる。でも、私が欲しいのは麻美のこの手であり、ぬくもり。またの名を誠実という。麻美ほど私の真実に近いひとはいない。
「麻美、幸せになってね」
「美香が幸せじゃないと私もうかうか幸せになんてなれないよ」
 麻美は歯を見せて笑った。麻美は可愛い。私は今日も男に抱かれるだろう。麻美を抱く自分を想像しながら、男を利用する。私はあばずれじゃない。だって麻美のことがこんなに好きなのだもの。私の唯一の誠実さは麻美に本当の気持ちを打ち明けないこと。いつか擦り切れてしまうまで、私は心のなかで麻美への愛の言葉を囁き続けるのだ。想いはまるで呪いのように、私を縛り付け麻美から目が離せなくなる。どうか健やかに生きてください。私は麻美がありのままでいてくれるだけで救われるのだから。

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