CLUB NAKED

#1

 クラブ・ネイキッドのダンスフロアでエイコとヒカリは目が合った。その目配せは大勢が踊るなかで、エイコとヒカリにしか分からなかった。エイコは胸が締めつけられたが、それと同時に甘くとろけるような身体の感覚を思い出し、差し伸べられたヒカリ手に自分のそれを重ね、導かれるままにネイキッドをあとにした。

 クーラーもなしに締め切った室内でケモノのような情交が終わると、ヒカリはさっさとタバコに火を着けた。エイコはベッドから落ちて床の冷たさを存分に味わっている。セックスのあとの冷たいものはなんでも気持ちが良い。例えばアイスクリーム、そしてクール・ダウンさせるシャワー。エイコはそうやって自分を甘やかしてくれるものが大好きだ。ときにそれが良くないものだと知りながら溺れる。ヒカリとのセックスだってそうだ。けれど抗うことをしない。エイコは刹那的な快楽主義者と言われても否定はしないだろ。が、物事はもう少し複雑だとエイコは言うだろう。
「風邪を引く」
 ヒカリはあられもなく転がっているエイコに言うが、エイコは一向に意に反さない。
「だったら窓を開ければいいのに」
「誰も女同士のファックなんて聞きたくないっしょ」
 エイコはわざと下品な言葉を使った。ヒカリはエイコの言葉遣いに眉間を寄せて長い黒髪をかき分けた。
「その言葉遣いと態度、どうにかならないの?」
「今さらヒカリに恥じらってみてどうなるの?」
 エイコは質問を質問で返しシャワーを浴びる意志がないことを告げるが、ヒカリから射抜くような視線を感じエイコは肩をすくめた。恋人でもないのに小うるさいやつだ、と毒づきながらバスルームへ向かった。エイコは実のところヒカリとは言葉を交わすよりもジェスチュアーのほうが多いのではないかと思っている。

 ゲイタウンである新宿二丁目から少し離れたところにあるクラブ、ネイキッド。エントランスは女性オンリーのクラブでヒカリとエイコは出会った。そして今はとても捩じれたかたちで二人は逢瀬を重ねている。
「あつっ」
 古いシャワーはエイコの予想以上に熱いお湯が噴き出してきた。慌ててコックをひねり、冷水に近い状態にした。冷たい水のしぶきを浴びながらエイコは何をやっているんだか、と自らを自嘲した。「爛れている」。だからなんだと言うのだ? そんなあざけりだった。

 マナーモードにしていた携帯電話が震えだすとヒカリはタバコの火を消した。手に取って液晶画面を見るとマイ・スウィート・ハニーと書いてあった。たぶんエイコの仕業だろう。しかしこんな悪戯でも相手が誰か分かってしまう自分自身をヒカリは自嘲した。
「もしもし?」
「もしもし、ヒカリ? 今ヒマ?」
 電話の相手はアマネだった。ネイキッドに通じる地下階段のそばからかけているのだろうか、聴き慣れた雑音が電話越しに響いている。
「ちょっと取り込んでいるんだ」
「そっか、ネイキッドにいるんだけど知り合いが全然いなくてさ。今度エイコも誘うから一緒に行こうよ」
 明るく弾んだ声が今はヒカリには痛い。ざわつきが、変化が、ヒカリは好きではなかった。
「だったらカズミも誘った方がいいね」
「そうね、エイコとカズミ仲良いもんね」
「また連絡するよ」
「取り込み中ごめんね、またね」
 そう言うとアマネは電話を切った。ヒカリは自分がアマネに抱いている感情を喚起せざるをえなかった。ヒカリにとって恋愛感情はただの重荷でしかなった。恋愛は最高にスリリングなジェットコースター。しかし絶対安全というシートベルトはない。たかが恋で身を滅ぼすのはごめんだ。けれども。けれども、ひとりでいることの充足を感じれば感じるほど、自分は孤独だと感じてしまう。充足しているのに、足りているのに、恋しい。何が恋しいのか目を瞑る。ヒカリは恋しいものをアマネには悟られたくなかった。
 ちょうどバスルームから出てきたエイコのタンクトップから伝わる。ひとの体温がヒカリには甘い蜜だ。吸いつけられるように掻き抱いた。
「電話だったん? あまーい彼女から。恋しくなっちゃった?」
 エイコは茶化すように聞いたがそれを無視して、エイコをマットレスに押し倒した。
「それはお互い様でしょ?」  ないものねだりのふたりは自らの純情を見ようとはせず愚かだと知りながら言葉少なに行為に耽溺するのだった。


   ……to be continued.


BGM;Pure(Mig's Petalpusher Vocal) blue six
2012年に発行した『Club Naked』(黒歴史!)のリライト。
書きたい書きたいと思っていたクラブもの&女の子の性愛。


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